~海を守ることと、肌を守ること~
2026年8月27日、アメリカ・カリフォルニア州議会において、日焼け止めの環境広告表示を規制する法案「AB1744」が知事に送付されました。5月21日に70対2で下院可決、8月20日に38対0で圧倒的多数での上院可決で、現在は知事の署名を待つ段階に入っています(出典:LegiScan)。
この法案は、日焼け止め製品に「リーフセーフ(reef safe)」「オーシャンセーフ(ocean safe)」「マリンセーフ(marine safe)」といった、あたかも海にやさしいかのような表示をすることを、特定の化学系UV吸収剤を含む製品については禁止するというものです。対象となる成分には、アボベンゾン、ホモサレート、オクチノキサート、オクチサレート、オクトクリレン、オキシベンゾンなどが挙げられています。これらの成分を含む製品は、たとえ「サンゴにやさしい」と謳っていても、今後は虚偽・誤解を招く環境広告とみなされる可能性があるということです。
逆に言えば、法案が定める基準を満たして「リーフセーフ」を名乗れるのは、酸化亜鉛や酸化チタンといった鉱物由来の紫外線散乱剤のみを使用した日焼け止めに限られます。この法案は、地元サクラメントの高校のエコクラブの生徒たちが問題意識を持ち、議員に働きかけたことがきっかけで生まれたことでも知られています。

Dawn Addis議員公式・2026年2月11日
“アディス議員、偽の「リーフセーフ」日焼け止めラベルを禁止する法案を提出”
カリフォルニア州で「日焼け止めグリーンウォッシュ規制法」が可決
サンゴ礁を守るための、これまでの歩み
日焼け止めの化学成分からサンゴ礁を守ろうという動きは、今回のカリフォルニア州が初めてではありません。世界で最初にこの問題に踏み込んだのは、太平洋の島国パラオでした。2018年、ジェリーフィッシュレイク(クラゲの湖)でオキシベンゾンなどの化学成分が広く検出されたことをきっかけに法律が成立し、2020年からオキシベンゾンやオクチノキサートなど10種類の成分を含む日焼け止めの販売・持ち込みを禁止する、世界初の国家規模の規制となりました。
同じ2018年には、アメリカのハワイ州でもオキシベンゾンとオクチノキサートを含む日焼け止めの販売を禁止する法律が成立し、2021年から施行されています。これはアメリカの州としては初めての規制で、その後カリブ海のボネール島や、アメリカ領ヴァージン諸島、メキシコの一部のリゾート地域など、美しいサンゴ礁を抱える国や地域で、同様の取り組みが次々と広がっていきました。
これらの規制は、いずれも「成分そのものの販売を禁止する」というアプローチでした。それに対して今回のカリフォルニア州のAB1744は、成分の使用そのものを禁じるのではなく、「リーフセーフ」という表示の側を規制するという、少し違う角度からのアプローチです。約8年前にパラオとハワイが切り開いた道の先に、今回のような「表示の正しさ」を問う法律が生まれてきたことを思うと、サンゴ礁を守ろうとする世界の歩みが、少しずつ形を変えながら着実に積み重なってきているのだと感じます。
なぜ、日焼け止めの化学成分が問題になるのか
海水浴やサーフィンで海に入るたびに、肌に塗った日焼け止めの成分は少しずつ水中へと流れ出していきます。研究機関の調査では、こうした化学系UV吸収剤がサンゴの白化や、サンゴ幼生のDNA損傷、骨格異常などと関連づけられており、蓄積すれば海洋生態系全体への影響も懸念されています。世界の日焼け止め市場が拡大を続けるなかで、サンゴ礁の海域だけでも年間数千トン規模のUV吸収剤が流れ込んでいるという試算もあります。
もちろん、紫外線から肌を守ること自体は、健康を守るうえでとても大切なことです。問題は「どう守るか」という選択肢の中身なのだと、私たちは考えています。
沖縄の現在地
では、サンゴ礁を有する日本の沖縄県は、この問題にどう向き合っているのでしょうか。沖縄県が令和8年(2026年)1月時点でまとめたマリンレジャーとサンゴ礁保全に関する資料によれば、県はハワイやパラオのように特定成分の使用や販売そのものを禁止する規制には、今のところ踏み込んでいません。紫外線吸収剤や紫外線散乱剤がサンゴ礁生態系に与える毒性については不明な点が多いこと、そしてサンゴの白化現象の主な要因は高水温であり、日焼け止めの使用量を減らすことが直ちに白化防止につながるわけではないことなどを理由に、正しい知識のもとでバランスよく対応することを基本姿勢としています。
一方で、この同じ資料には、水着の上からラッシュガードなど肌を露出しない服装を着用し、露出部分だけに日焼け止めを塗ることで、海に流れ出す日焼け止めの量そのものを減らすという対策が、具体的な推奨事項として明記されています。規制という強い手段はとらないものの、「着る」紫外線対策の価値は、沖縄県自身がすでに認めているということです。
OISTの取り組みと、エポカルへのご紹介
沖縄のサンゴ礁を守る研究と発信を続けている機関のひとつが、沖縄科学技術大学院大学(OIST)です。OISTは2023年、サンゴのゲノム解析と環境DNA(eDNA)の技術を組み合わせ、沖縄のサンゴ礁の保全・再生を目指す「OISTサンゴプロジェクト」を立ち上げました。サンゴの分布地図(サンゴアトラス)の作成や、遺伝的多様性を保った植え付けなど、科学的知見に基づいた息の長い取り組みを進めています。
OISTはまた、リソースセンターの「Green Okinawa」という発信の中で、サンゴに優しい暮らし方を紹介しています。その第16回の記事「サンゴに優しい日焼け止め」では、化学系の紫外線吸収剤がサンゴ礁に与える影響や、ミネラル系日焼け止めへの切り替えとあわせて、日焼け止めそのものに頼りすぎない「UVカットウェアの着用」を、海にとって最も自然な解決策として紹介しています。そしてその記事の中で、エポカルのウェブサイトを、紫外線による日々のダメージに向き合う日本のアパレルブランドとして直接ご紹介いただいています。
OIST「Green Okinawa (16) サンゴに優しい日焼け止め」を見る
以前、埼玉県から沖縄県庁を訪ねてサンゴ保護についてお話をうかがった際、「世界の動向を見ながら検討していく」というお答えをいただいたことがありました。あれから月日が経ちましたが、県としての規制はまだ様子見の段階にあります。それでも、研究の現場であるOISTが、着る紫外線対策の意義を発信し、エポカルの取り組みにまで言及してくださっていることは、私たちにとって何よりの励みです。
エポカルが「着る紫外線対策」にこだわってきた理由
エポカルは2002年の創業以来、日焼け止めを塗ることだけに頼らない紫外線対策として、UVカットウェアや帽子づくりに取り組んできました。生地そのものに紫外線を防ぐ力を持たせることで、繰り返し塗り直す必要もなく、洗濯を重ねても効果が長く続き、そして何より、海や川に化学成分を流し込む心配がありません。
今回のカリフォルニアの法案は、私たちに向けられたものではありませんが、根っこにある問いは同じだと感じています。紫外線から肌を守ることと、私たちが暮らすこの地球環境を守ることは、本来どちらか一方を選ぶものではなく、両方とも大切にできるはずだということです。
日焼け止めを否定するつもりはありません。塗る対策と、着る対策を上手に組み合わせることで、肌にも、海にも、やさしい紫外線対策がきっと実現できます。エポカルは、これからも「安全で確実に紫外線から肌を守る」UVカットウェアを、長く大切に着ていただけるものづくりを続けていきます。
晴れたらエポカル!~Sunny days call for EPOCHAL.
株式会社ピーカブー/代表取締役 エポカルプロデューサー
松成紀公子(まつなりきくこ)







